1.第2回みどりの安全保障―「森づくりの道フォーラム」の報告
2015年1月17日(土)、第2回みどりの安全保障―森づくりの道フォーラムが、東京・京橋にある㈱イトーキSYNCAの会議室で行われました。
昨年は全国緑化行事が筑波山鬼ヶ作国有林で初めて行われてから80年の節目の年でした。これを記念し、道普請を協働し、筑波山神社拝殿で第一回のフォーラムを開催しました。この内容につきましては、活動内容2014年の項、「1.緑化の原点に学ぶ道普請車座フォーラム開催のご案内」をご参照下さい。
前回ご登壇頂いた方々のご意見をもっと深くお聴きしたいという要望もあり、
今回のフォーラムの開催となりました。
フォーラムの概要は下記のとおりです。
またプログラムはPDFファイルでご覧になれます。
■ 開会の辞
☆梶谷辰哉氏・公益社団法人国土緑化推進機構専務理事
緑化の原点は筑波山、昨年、道普請とフォーラムが開催され、今回は2回目のフォーラムである。一見豊かな森林も現在、様々な要因から放置されている。植える、育てるの循環が必要だ。日本の国土は災害を受けやすい、安全な国土づくりに、森林をどうするか、それがみどりの安全保障に繋がるが、今回のフォーラムが日本の国土を考えるきっかけになることを願う。
☆須藤高志氏・NPO法人地球の緑を育てる会副理事長
昨年の道普請は、発祥の地の第一発見者・小泉さんや、道普請の作業開始にあたり、大雨の中、お払いをして下さった筑波山神社・宮司の田中泰一さんのことが忘れられない。道普請という古い言葉であるが、道がなければ何もできない。また、森の緑は大気バランスに繋がるが、酸素と水を提供してくれる森林の恵みに感謝する。ご参加の皆様に感謝する。
■ フォーラム開催の背景=公益社団法人国土緑化推進機構・青木正篤常務理事
古くより日本人は自然に畏敬の念を持ち、森羅万象に神を感じてきた。常に緑豊かだったわけではなく、全国に禿山が多かった。昭和24年には、挙国造林・造林こそが日本の産業、文化、経済を支え、国家再生には森づくりが必要と荒廃していた日本の山々の造林を行うようになった。デンマークでも挙国造林を行い、国民の血と汗により現在の豊かな農業国家となっている。筑波山鬼ヶ作国有林での第一回植樹祭は、現在の全国植樹祭に繋がる。現在も自然災害が多く、今、何をすべきか、温故知新、戦後のように国土基盤づくりを国民運動として発信し、広げよう。
(※ 「道21世紀新聞」にも青木正篤常さんの記事が紹介されています)
■ 会場の提供の株式会社イトーキ・末宗浩一エコニファ開発推進室長
オフィスに国内産材木を活用。針葉樹から広葉樹に広げ定期的に購入している。2mに切った木材を運ぶ道があれば国産の材を活用できる。それを使用することにより、地方の活性化につながる。
梶谷辰哉氏 |
末宗浩一氏 |
耳を傾けるご参加の皆様 |
■ パネルディスカッション
斗ヶ沢秀俊氏・毎日新聞社水と緑の地球環境本部長がコーディネートを務めるパネルディスカッションでは、次のような熱心なご発言を頂きました。(アイウエオ順)
斗ヶ沢秀俊氏(左) |
大塚潤子氏、伴次雄氏、牧元幸司氏 |
箕輪光博氏、宮林茂幸氏、青木正篤氏 |
☆大塚潤子氏・株式会社東京チェンソーズ
山を上流と下流に分けると、木材の使用方法や消費者対策などは山の下流の仕事だ。木を伐採し、植林して育てるというようなことは山の上流の仕事である。上流域の仕事を怠ると下流域の災害にもつながる。下流域の仕事同様に上流域の仕事も大切ではないか。
☆伴次雄氏・社団法人全国森林リクレーション協会理事長
自然の山は大いなる資産だ。山形県の金山町は人口3000人。若い人が資金を出し合い、株式会社を立ち上げて林業経営をしている。そういう感覚と自分の山をコツコツと管理する、その双方が必要であろう。
☆牧元幸司氏・林野庁林政部長
綾町や椎葉村のように日本は大変素晴らしい森を有する一方、戦後、植えられたスギ、ヒノキが70年を経て伐期を迎えている。経済林(人口林)を手入れ、伐採、植林、手入れ、伐採、植林と循環を作ることが大事。木を使うことが森を育てることにつながる。間伐と植林、木材使用に若い人が携われる仕組み作りが課題。
☆箕輪光博氏・公益社団法人大日本山林会会長
明治15年(133年前)の山林会の設立以来、森林の情報発信を毎月欠かさず行ってきた。野山を駆け巡って遊んだ幼少期だが、現在、そのような体験をする子供が少なくってきている。大日本文化書道院の山本玲葵先生の素晴らしい書が展示されているが、その関、環、感の3字に尽きる。かかわって、つながって、うけとめて、この要素が今後の森づくりに必要ではないか。
☆宮林茂幸・東京農業大学教授
木材が旺盛を極めた時代から1/10以下に価値が下がっている現状。どういう森林がいいのか、山の姿を把握、図面に落とし、デザインして造林する、人間社会のように年齢構成あっての森にするには、科学技術、民間、いろんな人々の協力が不可欠だ。産業としての林業は地域の中での小さな木材の活用も大事で、日常の中で木を使うということは人々の意識の向上に繋がる。
☆青木正篤氏・公益社団法人国土緑化推進機構常務理事(オブザーバー)
都市と山村の交流では、地域の人と一緒に活動することが大切で、地域とかかわりのない人が出ていってというのは芳しくない。森林体験のない人が増えている。都心が群馬県の恩恵を受けていることなど、県をまたがってその関係を知り、その事実を発信することが大事。どんぐりを播いて育てるなど子供たちの体験を通しての森づくりなど、木を植えることは人の心に木を植えることで、人を育てていく。
活動発表をする
NPO法人 |
■ 各団体の活動発表
東京農業大学
NPO法人時の素の森クラブ
毎日新聞社
NPO法人地球の緑を育てる会
以上の4団体の活動発表がそれぞれ3分間でなされました。
体験発表をする茨城県立並木中等教育学校2年 田中歩さん |
■ 子供たちの体験発表
☆田中歩さん・茨城県立並木中等教育学校2年
自分の幼稚園の頃の夢は広大な土地を買って、そこに沢山の木を植えること。今、筑波山の植林や道普請、苗を育てる圃場のお手伝いなどの経験をさせて頂き、自分の夢だと思っていたことが、一歩、一歩実現していくようで、とても面白い。これからも参加して学習させて頂きたいと素直な言葉で語りました。
☆日本文化書道院玲書館の生徒さん4名(東京都世田谷区在住)
実際に森に入って丸太を運び、川の沢ガニに触れ、樹に巻きつくツルの切取りなどの体験を、現場ですぐに間伐材利用の板に得意の毛筆で書き下ろした生徒さんたちは、森のいきいきとした体験を発表、書はロビーに展示されました。
体験発表をする 日本文化書道院玲書館の生徒さん |
日本文化書道院玲書館の生徒さんの作品 |
日本文化書道院玲書館 |
■ 総括講演・畠山重篤氏・NPO法人森は海の恋人、国連フォレストヒーロー
講演する畠山重篤氏 |
気仙沼の牡蠣養殖業者として27年前から山に木を植え続けてきたが、縦割りの学問でなく、トータルに物事を捉える学問分野の必要性から森里海関連学という学部を作った京都大学からの依頼で大学の教授になった。学生は今、現場に積極的に参加、現場に触れる体験が学問に必要であることを感じる。
北海道大学教授の松永勝彦先生からは鉄分の研究が環境問題につながることを学んだ。植物が吸収できる形の鉄がつくられるのが森林、森林の腐葉土にはフルボ酸があり、これが鉄とくっついてフルボ酸鉄となり、川を下って植物プランクトンの近くに来ると、離れて鉄が吸収され、光合成が成立する。
中国から飛んでくる黄砂の中には鉄分があり、それがアラスカあたりで海に落ちる一方、グリーンランド近くの塩分の濃い深層水は4000メートルも海中に沈んで大西洋を南下南極を回って太平洋を北上、窒素やリン酸を海中から集めながら親潮と呼ばれて北太平洋あたりに浮上、再び北大西洋に戻っていく深層大循環がある。川幅20キロ、日本の5倍の森林を有するアムール川流域のチョウセンゴヨウマツの減少は大西洋、太平洋に影響を及ぼす。森を育てることは海を守ることに繋がる。
その他、落合直文や熊谷武雄の歌人の話、鉄の会社・新日鉄からオーストリアシャーク湾やハマースレイ鉱山の話、東京湾と鹿児島湾の違いが鉄にあることなど、盛り沢山の内容で、もっと深く伺いたい感動的なご講演でした。
■ 閉会の辞:安永正治・茨城森林管理署長
閉会の挨拶をする安永正治氏 |
役所に入った30年前は、市民から国への要求が大きい時代だった。しかし、今は環境教育の時代、木を植える、育てる、体験学習など、国と市民が協力し合ってやっていこうという時代に変わったように思う。関わる、知る、愛する、という森との関わり、そして問題提起が大事だ。
懇親会で発祥の地発見に至る様子を語る |
懇親会での畠山氏 |
会場横のロビーには、森林再生写真展「日本の森林いまむかし 蘇る山々の緑」が併設され、禿山状態の山々や、各地の山の今昔が数多くのパネルによって紹介され、みな真剣に見入っていました。書道塾の生徒さんの作品や、各団体の紹介パネルも添えられ、NPO法人時ノ寿の森クラブが作成した間伐材を利用してのベンチが目を引きました。
講演会終了後、株式会社イトーキの社内見学があり、機能性を有する近代的建築の内部の要所に木材を利用、やさしさと温かさを提供し、仕切りをできる限り排除した開放的オフィスは、時代の先端をいくものでした。
午後6時からの懇親会では、「今までに聴いたことのない深いフォーラムだった。」、「子どもさんたちの発言が素晴らしかった」、「また、この続きを聴きたい」など、前向きに捉えて下さった方々の意見が多く、今後の活動に参考させて頂ければと思います。
ご参加の皆様、どうもありがとうございました。