岡崎隆男さんは定年退職後千葉県から茨城県つくばみらい市に移住、時折、当会の圃場で育苗作業にご協力下さっています。筑波山水源の森づくりに関心を寄せて下さり、「筑波山の生き物たち」の原稿をお寄せ下さいました。詳しい貴重な内容ですので、皆様にもお読み頂きたいと思います。
筑波山の生き物たち(第1回 鳥類)
地球の緑を育てる会は平成13年設立以来、筑波山に豊かな水源涵養林を目指し、植樹を継続しています。今までに約3万本を植え、初期の植樹地は立派な針広混交林に育っています。活動フィールドの筑波山そのもの、特に生き物に興味を覚え調べ始めました。筑波山はその姿かたちから植生の明確な垂直区分がみられ、中腹に麓より気温の高い斜面帯があるなどの条件があり、さらに神社林として保護され、豊かな生態系に恵まれています。しかし、その一方で様々な脅威にさらされてもいます。筑波山の生き物について、茨城県自然博物館の調査報告書と環境省及び茨城県レッドリスト(RL)を中心に整理していきます。第1回目は鳥類です。
少し古く、1994年から1996年の調査ですが、17目36科118種が確認され、さらに過去に記録されているもの(文献種)が15種あります。文献種のうち11種は他の資料や筑波山自然図鑑にあり、自然博物館調査以外に4種が追加されます。ここでは、自然博物館の合計133種についてみてまいります。文献種で他の資料にも見当たらないのはオオアカゲラ(キツツキ科)、トラフズク(フクロウ科)、ムギマキ(ヒタキ科)、マミチャジナイ(ツムギ科)の4種。
茨城県RLカテゴリー別
和名欄の文=文献種、記号=環境省RLカテゴリー
カテゴリー |
和名(科名) |
絶滅危惧1A類
3種 (CR) |
ヒクイナ(クイナ科・NT)、イワヒバリ(イワヒバリ科)、アカショウビン
(文・カワセミ科) |
絶滅危惧1B類
4種 (EN) |
カッコウ(カッコウ科)、アオバズク(フクロウ科)、コマドリ(ヒタキ科)、
ゴジュウガラ(ゴジュウガラ科) |
絶滅危惧Ⅱ類
8+1種 (VU)
|
アマサギ(サギ科)、トモエガモ(カモ科・VU)、ハチクマ(タカ科・NT)・サシバ(タカ科・VU)、ジュウイチ(カッコウ科)、コシアカツバメ(ツバメ科)、サンショウクイ(サンショウクイ科・VU)、ハヤブサ(文・ハヤブサ科・VU)、オオアカゲラ(文・キツツキ科) |
準絶滅危惧
4種 (NT) |
カイツブリ(カイツブリ科)、オオタカ(タカ科・NT)、カワアイサ(カモ科)、マミジロ(ヒタキ科) |
情報不足・注目種
4種 (DD) |
ハイタカ(タカ科・NT)、ヨタカ(ヨタカ科・NT)、コサメビタキ(ヒタキ科)、
ミゾゴイ(文・サギ科・VU) |
茨城県RLはオオアカゲラを除き23種。このうち10種は環境省RLでもあります。また、魚を捕食するタカ科のミサゴは県2000年RLでは危急種でした。その後の調査で生息数が安定しているとされ、2015年版から削除されていますが、環境省RLでは準絶滅危惧です。同様に環境省RLで県RLでないものにチュウサギ(NT)、アカモズ(文・EN)があり、水郷筑波国定公園らしく水に関係するものが2種、この地域で守っていくことが大切です。環境省RLは13種、希少種合計は26種となります。
カンムリカイツブリ(カイツブリ科)、ミサゴ・ツミ(タカ科)、コチョウゲンボウ(ハヤブサ科)、マガモ(カモ科)、コルリ・オオルリ・サンコウチョウ(ヒタキ科)、オオコノハズク(文・フクロウ科) |
県RL2015改訂版から生育状況が安定しているとして削除された種は13種このうち9種は調査種です。
希少種も含め多くの鳥が筑波山に生息あるいは渡りの中継地として利用していますが、もう一つ注目すべきは猛禽類の多さです。
タカ科 |
オオタカ、サシバ、ハイタカ、ハチクマ、ミサゴ、トビ、ツミ、ノスリ |
ハヤブサ科 |
ハヤブサ(文)、チョウゲンボウ、コチヨウゲンボウ、チゴハヤブサ |
フクロウ科 |
フクロウ、アオバズク、オオコノハズク、トラフズク(文) |
ハヤブサは文献種ですが、「筑波山の自然図鑑(メイツ出版)」につくし湖で撮影された写真が掲載されています。他の資料にもないトラフズクを除き猛禽類合計は15種。猛禽類の多くは空中を生活の場とする生き物の中で生態系の頂点に立ちます。しかし、その高次消費者の地位にあることは、同時に多くの個体数を維持できないことを意味します。
広いなわばりをもち、狩りを行う自然環境が維持されることが生存に不可欠ですが、一つの例えとしてオオタカの食物連鎖の話があります。オオタカが1年間に食べるエサの量は18.25Kg、仮にシジュウガラだけとすると1,074羽、シジュウガラがアオムシだけを食べるとすると1羽で1.1Kg、アオムシ1匹が3gとすると1億匹を超えます。もちろんシジュウガラだけを捕食しているわけではなく、ハトやカモなどの中型や植物も食べる鳥、鳥以外の獲物も捕らえています。話を大きくするための誇張したたとえ話ですが、一組のつがいが子育てするためには、豊かな自然環境・豊かな森が必要です。これからも「筑波山 水源の森づくり」を継続していくことが大切です。
筑波山の生き物たち(第2回 魚類)
前回は筑波山の森に育まれた鳥類の報告でしたが、地球の緑を育てる会の主力事業は「筑波山 水源の森づくり」です。筑波山に降った雨は、西は桜川に東は恋瀬川に流れ、いずれも霞ケ浦に注ぎます。そこで今回は水に関係するものとして両川の魚類について報告します。
茨城県自然博物館は2007年2月4日~2008年11月1日の期間に延べ23日の調査を行い、桜川32種、恋瀬川18種、合計9目14科37種を確認
ヤツメウナギ科 |
スナヤツメ北方種 |
ウナギ科 |
ニホンウナギ |
ギギ科
(ナマズ目) |
ギバチ |
ナマズ科 |
ナマズ |
キュウリウオ科 |
ワカサギ |
アユ科 |
アユ |
サケ科 |
サクラマス・ヤマメ |
メダカ科 |
ミナミメダカ |
サンフィッシュ科 |
ブルーギル、オオクチバス |
カジカ科 |
カジカ |
コイ科 |
コイ、ギンブナ、キンブナ、ヤリタナゴ、タナゴ、タイリクパラタナゴ、ハス、オイカワ、カワムツ、ヌマムツ、ウグイ、モツゴ、ビワヒガイ、タモロコ、カマツカ、ツチフキ、ニゴイ、スゴモロコ |
ドジョウ科 |
ドジョウ、シマドジョウ、ホトケドジョウ、カラドジョウ |
ハゼ科 |
ウキゴリ、トウヨシノボリ、ヌマチチブ |
イクタルルス科 |
チャネルキャットフィッシュ(アメリカナマズ) |
恋瀬川の魚類は「つくばの自然史Ⅰ筑波山(学園都市の自然と親しむ会編1992年)」に大変貴重な資料が載っています。1978年2月~翌年3月までほぼ毎月1回調査、4目5科17種を確認。当調査にあって自然博物館にないものが6種あります。
ギンブナ、ビワヒガイ、タモロコ、ミナミメダカ、ウキゴリ、以上5種は桜川の確認種アカヒレタビラ |
アカヒレタビラ(コイ科タナゴ属)は全国的に減少、環境省レッドリスト(RL)2012年改訂でカテゴリーがアップ、環境省・県RLとも絶滅危惧1B類。桜川でも確認されず、県西地域の河川では小野川のみです。茨城県RL10種、環境省RL11種、希少種合計は12種
県RLカテゴリー |
和名( )内は環境省RLカテゴリー |
絶滅危惧1B類(EN) |
タナゴ(EN) |
絶滅危惧Ⅱ類(VU) |
スナヤツメ北方種(VU)、ヤリタナゴ(VU)、キンブナ(VU)、ホトケドジョウ(EN)ギバチ(VU) |
準絶滅危惧(NT)
|
ニホンウナギ(EN)、カジカ(NT)、ミナミメダカ(VU)、 シマドジョウ |
県指定なし |
スゴモロコ(琵琶湖移入種VU)、ドジョウ(DD) |
RLカテゴリーの補足
絶滅危惧1B類 |
Endangered 近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの |
絶滅危惧Ⅱ類 |
Vulnerable 近い将来1類に移行することが確実と考えられるもの |
準絶滅危惧 |
Near Threatened 現時点で危険度は小さいが上位移行の要素がある |
情報不足 |
Data Deficient 評価するだけの情報が不足している種 |
ドジョウが環境省RLに新規追加。きれいな水に棲むホトケドジョウ・シマドジョウあるいはアジメドジョウと異なり、多様な環境に適応できるドジョウがなぜ?? 調べてみると、桜川にも生息が確認されたカラドジョウ(食用として輸入・要注意外来生物)など遺伝子の異なる外国産との交雑や種間競争が懸念されるが、全国的な被害状況が十分把握されておらず、情報不足として登録されました。
メダカは環境省RLでは、メダカ北日本集団とメダカ南日本集団の2種に分かれています。2013年にメダカの和名が破棄され、ミナミメダカとキタノメダカの標準和名が提唱。県RLでも2000年版はメダカ(希少種)でしたが、2016年改訂版はミナミメダカになりました。両種とも日本の固有種と考えられていますが、その分布は単純ではなく、同じ水系でも上流と下流で異なったり、同所的に分布している場合もあります。
ミナミメダカはさらに9タイプに分かれ、亜種とするほどではないものの明確な差が認められ、安易な放流による攪乱が問題になっています。メダカと云えば「めだかの学校」が歌われなくなっています。「教科書から消えた唱歌・童謡(産経新聞社)」によれば、昭和26年NHKラジオで放送、安西愛子が歌って大ヒット、このレコードは文部省芸術選奨文部大臣賞を受賞。その後、開発や環境悪化で次第にメダカが姿を消すとともに「めだかの学校」も教科書から消えてしまいました。平成12年に環境省RLとなり、平成14年に1社の教科書に復活したとのことです。皆様の地域ではどうでしょうか。
外来種、国内移入種も多くみられます。
特定外来生物 |
ブルーギル(日)、オオクチバス(世・日)、アメリカナマズ |
要注意外来生物 |
タイリクパラタナゴ(世)、カラドジョウ |
国内移入種 |
ビワヒガイ、スゴモロコ、ハス、カワムツ、ヌマムツ、 タモロコ、ツチフキ、ヤマメ(釣り用放流) |
(世)は世界の侵略的外来種ワースト100(国際自然保護連合)、(日)は日本の侵略的外来種ワースト100(日本生態学会)。アメリカナマズは1981年食用目的で霞ケ浦に移入・定着。アメリカのフィッシュバーガーに使われ、霞ケ浦周辺の食堂では天丼の食材として人気です。ビワヒガイ(鰉)は琵琶湖、瀬田川周辺では身近な食用魚、白焼きにして熱いまま酢につけて食べると美味、明治天皇が賞賛され、1918年霞ケ浦に放流・定着。魚編に皇の字を当てたのもこのことにちなんでいます。水のきれいな砂礫底でやや深い所を好み、他のコイ科と棲み分けており、在来生態系への影響は特に報告されていません。
水の生態調査が大きく変わっています。魚の生態調査は大変。自然博物館報告書に「調査地点ごとに河床の地形や川岸の植生が異なることから採取に使う漁具は、さで網、手網、投網、せん、釣りを状況に応じて使い分け、1~2時間の採取を行った」とあります。しかし最近は水を取り、環境DNAを調べるだけで、驚くほど簡単・正確に調査できるようになりました。以下、NHKサイエンスZERO「水の生態調査の大革命 環境DNA」(2016年7月17日放送)の内容を紹介します。
- 水の中には生き物の体から出た皮膚・粘液・糞があり、そのDNAを調べると、そこにどんな生物がいるかを特定できる。国の特別天然記念物オオサンショウウオについて366箇所調べ、127箇所からDNAを検出し生息域を特定できた。目的の生き物のDNAが1分子でも入っていれば、増幅して検出が可能。甲殻類、昆虫、水草であれ、基本的にどの生き物にトライしても環境DNAの検出に成功している。
- 魚については複数を同時に検出する方法が開発された。水を汲んで来たら、そこに棲んでいる魚が100種類でも200種類でも検出できる。現在7000種のDNA情報がデータベースに登録されている。
- 舞鶴湾内47か所の海水を採取しマアジのDNA量を特定したところ、魚群探知機のマアジの量とほぼ一致。種だけでなく、水中の生物量もわかる。今後の調査が楽しみです。
ホトケドジョウ・ニホンウナギ・ミナミメダカの3種は環境省より県のカテゴリーが低位、鳥類でも記しましたが水郷筑波国定公園らしい特徴と思います。しかし沢水が減った、あるいは枯れたとの話があります。
地元では昔から「筑波山に降った雨は7日かかつて霞ケ浦に流れ込む」と云われてきました。地表に落ちた雨が緑のダムといわれる照葉樹林に吸い込まれ、あるいは水田・ため池で保水されジワジワと流れ出していたのが、今では雨が降ってから霞ケ浦の増水は早くなっているそうです。筑波山の保水機能が低下してきていると思われます。これからも地道に「筑波山 水源の森づくり」を継続していくことが大切です。
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