会員寄稿・岡崎隆夫さん【2020年4月20日】
筑波山の生き物たち(第8回 外来植物)
寄稿 会員 岡崎隆夫氏
外来種=悪者とは思いません。新しい環境に適応したものが命をつないでいる。しかし国外・国内を問わず侵略的な外来種は十分な注意が必要。一旦侵入し、繁殖を始めると生態系への影響にとどまらず、農水産被害や人の生命・身体への被害も生じます。
筑波山で確認された植物の生態系被害防止外来種は14種。尚、植物の特定外来生物は記録されていません。
種名 |
科名 |
注 |
自然分布 |
移入時期・目的 |
ハリエンジュ |
マメ |
〇 |
北米 |
1873年 庭木・街路樹・蜜源・薪炭用 |
イタチハギ |
マメ |
― |
北米 |
1912年 砂防・護岸・飼料・観賞用 |
セイタカアワダチソウ |
キク |
〇 |
北米 |
1900年頃 観賞用・蜜源植物 |
カモガヤ |
イネ |
〇 |
地中海など |
1860年代 代表的な牧草 |
コヌカグサ |
イネ |
― |
北米 |
1863年 牧草、利用されず雑草化 |
オニウシノケグサ |
イネ |
〇 |
欧州 |
1905年 牧草・砂防用・法面緑化 |
シナダレスズメガヤ |
イネ |
〇 |
南アフリカ |
1959年頃 法面緑化・砂防用 |
外来性タンポポ種群 |
キク |
〇 |
欧州 |
1904年 サラダなどの食用・飼料 |
ハルザキヤマガラシ |
アブラナ |
〇 |
欧州 |
明治末期麦類に混入、サラダ用に栽培 |
ヒメジョオン |
キク |
〇 |
北米 |
1865年頃 観賞用(柳葉姫菊) |
キショウブ |
アヤメ |
〇 |
欧州など |
明治 観賞用、ビオトープに使われる |
アメリカセンダングサ |
キク |
― |
北米 |
1920年頃琵琶湖畔で初確認、詳細不明 |
メリケンカルガヤ |
イネ |
― |
北米 |
1940年頃 愛知県で初記録、詳細不明 |
シュロ類 |
ヤシ |
国内由来、九州北部以北の森林内に生育するもの |
「注」欄〇印は日本の侵略的外来種ワース100
ハリエンジュは樹高25mのマメ科落葉高木。1873年に庭木・街路樹・砂防林・蜜源植物・薪炭材として導入。当初アカシアと呼ばれていたが、後に同じマメ科のアカシア属(フサアカシアなど)が導入されたため、種小名の「よく似たアカシア」を直訳しニセアカシアと呼ばれる。
アカシア蜂蜜が採れる有用植物の一方、侵入したところでは、アカマツ・クロマツ・ヤナギ林が減少。海岸域や渓畔域の景観を大きく変え、また好窒素性草本やつる植物を伴った植生になり、カワラノギクなどの生育を妨害する。萌芽更新するため、防除には伐採だけでなく抜根あるいは切り口に除草剤を塗る必要があります。
西田佐知子「アカシアの雨が止むとき」、石原裕次郎「赤いハンカチ」、北原白秋「この道」、松任谷由実「acasia」はいずれもニセアカシア。アカシア属の多くは黄色い花をシャワーのように垂れ下げる。ニセアカシアは白い蝶型の花です。
イタチハギは1~5mのマメ科落葉低木。成長が早く、耐暑性・耐旱性・耐陰性があり、根に荒れ地を回復する機能を持つ。原産地は北米だが韓国から1912年に砂防・護岸・防風・法面緑化・生け垣・観賞用に導入された。各地で野生化し、河川・道端・空き地などに広がり、霧ヶ峰・白山等の亜高山帯にも分布を広げた。自然度の高い地域では在来種の生育を阻害する。4~7月に咲く6~20cmの黒紫色の穂状花序をイタチの尻尾に見立て、葉の雰囲気が萩に似ることから名が付いた。イタチハギ蜂蜜が採れる。
セイタカアワダチソウは草丈0.5~3mのキク科多年草。1900年頃(明治末期)に萩の切り花の代用として導入され代萩とも呼ばれる。
昭和30年代後半からの高度経済成長時代に、造成地などの裸地・埋立地・放棄された耕作地・河川敷などで増殖し大群落を形成した。1本から5~27万個の種子が生み出され、100粒当り6.1mgと軽く冠毛を持っているため、まさに泡立つように風に飛ばされる。既に他の植物が群落を作っている暗い場所では発芽せず、明るい裸地や一年生草本の生える草地が適している。
秋の終わりに発芽し、ロゼットで冬を越す。春に他の植物に先駆けて月に60cmも成長。また地下茎からも芽をだし勢力範囲を拡大。さらに地下茎から植物の発芽や生育を阻害する他感作用(アレロパシー)をおこす化学物質を出す。
しかし大増殖した純群落もやがてオギ・ススキ・アシなどが入り込み、最近は勢いの峠を越したと云われています。
原産地北米ではハーブティーに使われるとともに、重要な蜜源植物。冬前に大量に採れる最後のチャンスだが、靴下に喩えられる物質を含み未精製状態ではとても食べる気にはならず、日本ではあまり利用されていない。ススキと競合するが、北米では逆にススキが侵略的外来種として猛威を振るっている。花粉症を疑われたが、原因ではない。虫媒花なので花粉の量は少ないうえに重く、風に飛ばない。
次のイネ科多年草3種は花粉症の原因。欧州はイネ科、米国はブタクサが多く、スギを加え三大花粉症と云われる。
イネ科多年草は種子と共に根茎からも繁殖し、根をしっかり張るため、一度定着すると根絶は困難。自然度の高い環境に侵入すると在来種を駆逐する可能性があります。
カモガヤは草丈40~150cmの多年草。オーチャードグラスの名でオオアワカエリ(生態系被害防止外来種・別名チモシー)と並ぶ代表的な牧草。1860年代に北海道で試作され、その後全国に導入。現在は北海道から九州までの畑地・河原・道端で野生化しているが、耐陰性が強く果樹園の下草に使われることもある。
コヌカグサは50~100cmの多年草。牧草として導入されたが積極的に利用されず逸失、全国の日当たりの良い道端・畑地・牧草地・樹園地で雑草化している。
オニウシノケグサ(鬼牛の毛草)は50~200cmの多年草。深根性で永続性に優れ、土壌保全力が高いことから斜面牧草地の牧草・道路の法面強化・半乾燥地の植生回復に用いられた。種子の生産量が多く、耐旱性・耐寒性があり、酸性土壌など様々な土壌に適応し雑草化している。
シナダレスズメガヤは60~120cmのイネ科多年草。北米原産、1959年に緑化用に導入。高速道路や宅地造成地の崖や斜面の土留めにも使われた。日当たりの良い砂質土壌を好み、沖縄を含むほぼ全国に分布。単為生殖を行い、種子は1株10万粒と多く根茎からも繁殖し大株となる。河川に侵入、砂を堆積しカワラノギク・カワラニガナなど在来種を駆逐する恐れがある。
セイヨウタンポポは10~40cmのキク科多年草。頂部に3.5~4.5cmの鮮黄色の頭花を1個つける。食用・飼料として導入、北海道の栽培地から逸出し雑草化、全国に広がった。また、牧草などに混入して移入したものもある。他のタンポポ類と交雑を作りやすく、日本で見られるセイヨウタンポポの8割は在来種との雑種の報告もある。
ヨーロッパや中東では古くからサラダなどに、根はタンポポコーヒー、花はタンポポワインの原料として利用される。薬草として利尿・貧血・黄疸・神経症・血液の浄化に効果があるとされ、乳液は虫よけ・虱取りに、花からは染料が取れる。在来タンポポも若芽は山菜として、おひたし・あえ物に使われる。
ハルザキヤマガラシは20~90cmのアブラナ科二年草~短命な多年草。明治末に麦類に混入して移入。1960年群馬県の牧場で野外確認、現在は各地に定着している。長角果は40~118千個と多く、根茎からも繁殖し、在来種を駆逐する恐れがある。自然度の高い国定公園などで駆除している。小麦・大麦・大豆の雑草でもある。葉に辛みがありサラダ用に栽培もされ、6~8mmの十字架型で鮮黄色の花をつける。
ヒメジョオン(ヒメジオン)は30~150cmのキク科一~二年草。頭花は2cm、中心に黄色い筒状花、その周辺にたくさんの白い舌状花を放射状につける。江戸時代末に柳葉姫菊の名で観賞用に導入。土壌の種類を選ばず適応力が大きく、明治初年には雑草化。筑波山に生育しているヘラバヒメジョオンと雑種(ヤナギバヒメジョン)をつくる。霧ヶ峰・八ヶ岳・尾瀬ヶ原などで毎年抜き取りが行われている。
キショウブは50~130cmのアヤメ科多年草。明治時代に観賞用に導入。水辺に美しい鮮やかな黄色の花を1~2個咲かせることからビオトープ創出等に使われる。淡黄色花・白花・八重咲・斑入葉等交雑品種が多い。水中の窒素・リン・塩類の吸収性に優れているが、丈夫で在来水生植物と競合や筑波山にも生育しているアヤメ(県・絶滅危惧Ⅱ類)などと交雑する。
次の2種は非意図的侵入で、詳細不明です。
メリケンカルガヤは50~100cmのイネ科多年草。北米原産、1940年頃愛知県で初記録。日当たりの良い乾いた土壌を好むが質は問わない。現在は関東以西の畑地・水田の畦・果樹園・牧草地・空地などに広く分布。9~10月に小穂に2花をつける。小穂に白い綿毛が多数生え、わずかな風でも広範囲に飛ばされる。しっかり根を張り簡単に抜きとれなく、株立ちとなり次第に繁茂する。在来種や農作物と競合の恐れがある。
アメリカセンダングサ(セイタカウコギ)は100~150cmのキク科一年草。北米原産、1920年頃琵琶湖湖畔で初記録、奄美・沖縄を含め日本各地に分布。水辺や湿地帯を好むが、土壌の種類・乾湿・肥沃度の適応力が強く、タウコギ・センダングサなど河川敷や水辺の在来種を駆逐する恐れがある。現在は水田・林内・畑地・牧草地から道路・荒地の普通の雑草となっている。9~10月に黄色い頭花をつける。種子の先に2本の刺があり、人間の衣服や哺乳動物の毛に付き分布域を広げる「引っ付き虫」の一種、水の流されても広がる。花言葉は「近寄らないで」。
国内由来の外来種はシュロ類の1種。自然分布でない九州北部以北の森林内に生育するものが指定された。シュロはヤシ科ヤシ属の総称、5種以上が知られる常緑高木。成長は遅いものの管理の手間がかからず、庭木・街路樹、繊維を縄・たわし・箒・敷物などの利用目的に導入。乾湿・陰陽の土地条件を選ばず多様な環境に適応、鳥により種が運ばれ拡大。強健で繊維が腐りにくく分解しないことが林の中では厄介です。
要注意外来生物は生態系被害防止外来種候補として検討されたが、農業被害・人体に影響はあるものの、生態系被害に該当しないものは除かれた。尚、要注意外来生物は生態系被害防止外来種リストの公表に伴い発展的に廃止されました。
筑波山に生育し、生態系被害防止外来種に指定されなかった(旧)要注意外来生物 キク科=ハルジオン・オオアレチノギク(以上、日本のワースト100)ブタクサ・ キクイモ・コセンダングサ・ヒメムカシヨモギ、アカバナ科=メマツヨイグサ |
ブタクサは30~150cmのキク科一年草。北米原産、明治初期に小麦・芝生の種子などに混入して移入。戦後より一層はびこった為「マッカーサーの置き土産」と呼ばれた。沖縄を含めほぼ全国に定着している。
花期は7~10月、雄花は2~3mmの黄色い小花の複数集まった房が細長く連なり、その下に雌花が数個付く。風媒花で秋の花粉症の代表、日本ではスギ・ヒノキに次いで三番目の多い。原産国アメリカでは20人に1人がブタクサの花粉症と云われている。
ブタクサ属の学名はアンブロシア、否定の「am」と死の運命「brotos」が語源。ギリシャ神話では神の食べ物とされ「不老不死・新生・神々しい」などの意味を持つ万能薬とされる。花粉と密が混ざった密パンとの説がある。イギリスの豚しか食べない、豚にしか適さない荒れ地に生える意味の別名「豚の草」を直訳。花言葉は「幸せな恋」、時代と場所により評価が大違いです。
ハルジオンは30~100cmのキク科多年草。北米原産、1920年頃「春に咲く紫苑」として観賞用に導入。1950年以降関東を中心に分布拡大。刈取や踏みつけに強く、除草剤の耐性型が出現し畑地の強雑草となっている。5~7月に黄色い大きな筒状花の回りに白・ピンク・薄紫の舌状花が車状にきれいに並ぶ。渡来当時は紅紫色が多かったが、現在は白に近いものが多い。
貧乏草とも呼ばれ、「手入れの行き届かない貧乏な家の周辺に生える」「折ったり摘んだりすると貧乏になる」などと云われる。山菜としての利用や糖尿病に効果がるとしてお茶にして飲まれている。
メマツヨイグサは30~200cmのアカバナ科一~二年草。北米原産、1920年代観賞用に導入、燐含量の少ない土壌でもよく育ち、種子は5千~10万個と多い。ほぼ全国に広がり亜高山帯や砂丘にも侵入、在来種との競合が懸念される。花期は6~9月、2~5cmの黄色い花は夕方から咲き始め、朝にはしぼむ一日花。仲間は宵町草・月見草と呼ばれる。除草剤耐性があり畑作物・牧草と競合する。種から月見草オイルが採れマッサージオイルなどに利用されている。
キクイモは1~3mのキク科多年草。北米原産、1850年代に食用・アルコール原料・飼料・観賞用に導入、現在はあまり栽培されなく河川敷・農耕地で野生化、固有種との競合の恐れがある。8~11月に咲く黄色い筒状花はキクに似、根はジャガイモよりやや小さい芋になる。生芋に13~20%のイヌリンを含み、キクイモオリゴ糖の原料になる。血糖値を下げる効果があり、お茶や顆粒に加工される。
次の3種は非意図的侵入で、詳細不明です。
オオアレチノギクは80~180cmのキク科二年草。南米原産、1920年東京で野生化が確認され、現在は本州から九州まで広く分布。土壌の種類や環境条件に対する適応力が強く、除草剤耐性もある。光や養水分に対する競争力が強く、農作地や牧草地の雑草として問題になっている。花期は7月~11月、円錐花序に3~4mmの徳利型の頭花を多数つける。種子生産量は11万個と多く、種子の寿命は50年以上と云われる。ヒメムカシヨモギに似るが、舌状花は小さく目立たない。
ヒメムカシヨモギは80~200cmのキク科二年草。北米原産、1867年頃(明治時代)に確認され、鉄道線路に沿って広がったため、鉄道草・御一新草と呼ばれた。ほぼ全国の畑地・樹園地・牧草地・道端・河川敷などに普通にみられる雑草となっている。花期は7~10月、円錐花序に2~3mmの小さな俵型の頭花を多数つける。頭花の中心は淡緑色の筒状花、周りに白い舌状花がある。種子は6万~80万個と多く、寿命は112年に及ぶとの報告もあります。
コセンダングサは50~150cmのキク科一年草。北米原産、江戸時代に渡来し、明治時代に確認された。乾いた環境に群生するが、土壌環境への適応性が大きく、関東以西の畑地・樹園地・牧草地から芝地・路傍・河川敷まで広く分布。花期は9~10月、円錐花序に黄色い花をつける。7~15mmの痩果は1205~6000個、刺があり動物の毛に付き分布拡大する「引っ付き虫」です。