活動報告

会員寄稿・岡崎隆夫さん【2019年2月14日】

筑波山の生き物たち(第7回 筑波山に植樹している樹木・ブナ科)

                   寄稿  会員 岡崎隆夫氏

 

「地球の緑を育てる会」は茨城県自然博物館小幡和夫先生と東京農業大学田中伸行先生にこれまでの植樹地の検証を頂き、筑波山の生態に沿った10種を選定して植樹をしています。これらの樹木について会員の皆様はよくご存じと思い躊躇しましたが、「筑波山の生き物たち」の一つとして取上げることにしました。半数の5種がブナ科であり、最初に筑波山のブナ科全般を紹介します。茨城県自然博物館調査は確認12種、文献2種。

特徴・果実・種名等   下線は筑波山に植樹している種

落葉樹、風媒花、どんぐり・鱗状殻斗・渋がある、楢(ナラ)と総称

コナラ、クヌギ、ミズナラ、カシワ(文献種)

常緑樹、風媒花、どんぐり・リング状殻斗・渋が多い、樫(カシ)と総称

アカガシシラカシウラジロガシ、アラカシ、ツクバネガシ、オオツクバネガシ(文)

常緑樹、虫媒花、しいの実・殻斗は全体を包み熟すと裂ける・渋はほとんど無い

スダジイ

落葉樹、虫媒花、栗(栗の実)・殻斗は全体を包み熟すと裂ける・渋はほとんど無い

クリ

落葉樹、風媒花、ぶなの実・殻斗は全体を包み熟すと開く・渋は少ない

ブナ、イヌブナ

 ブナ科の実は果肉が発達せず一見全体が種子に見えますが、2枚以上の心皮が成熟時に乾燥して堅い果皮となり、裂開せずに中に1個ないし数個の種を含んでいる堅果(けんか・ナッツ)と呼ばれる果実。胚乳はなく分厚い二枚の子葉に栄養物を蓄えている。

ブナ科は雌雄同株の雌雄異花、花期は4~5月が中心。アカガシ・クリなどは少し遅く5~6月。ナラ・カシ・ブナなど風媒花は、尾状に長い雄花序を風になびかせ大量の花粉を飛ばす。シイ・クリは虫媒花。青臭い匂いで花の時期を知らせ、ハナバチ・ハナアブ・ハナムグリなどの昆虫を呼び寄せる。その年に熟するものと翌年の秋に熟すもの(クヌギ・アカガシ・ウラジロガシ・ツクバネガシ・スダジイ)とがあります。

ブナの学名には「食用になる」の意味があり、多くの生き物に利用される。クリは縄文時代人の主食で三内丸山遺跡から出土、既に栽培されていたと考えられている。スダジイは渋がほとんどなく生でも食べられ、火で炙ると香味が増し美味しい。コナラ属のどんぐりには、筑波山に生育していないイチイガシを除き渋があり、人間はそのままでは食べられない。渋の原因であるタンニン・サポニンは水溶性。縄文人は川筋の流されない所や湧き水のある地に貯蔵穴を設け、自動的にあく抜きする工夫をしていた。

人間に育てられたネズミにどんぐりを与え続けると消化機能が働かなくなり死んでしまうが、自然界では環境に適した胃になっている。ネズミ・リス・イノシシ・クマ・シカ・キツネ・タヌキ・モモンガなどの哺乳類、カケス・オシドリ・マガモ・キジ・ヤマドリ・キツツキ類・ハシブトガラスなどの鳥類が餌にしています。

 ブナ科の堅果は豊作(なり年)と凶作(不なり年)を繰り返す隔年結実。他に柿・柑橘類に顕著に現れる。果樹には果実数が多いと翌年の花芽形成が抑制される特性があり、栽培種は剪定・摘花・摘果などで毎年の生産量を調整します。

豊作・凶作の仕組みについてブナを例に見ていきます。①ブナは5~7年に一度大量の花をつけ大豊作となるが、この年には幹はあまり成長せず、年輪を調べると過去の大豊作・凶作の年が分かる。豊作翌年の木自身の養分調整のため ②風媒花は開花量や花粉量が多いと結実量も高くなる。ブナは自家不和合性、他家授粉でないと種子ができにくく、結実しても発芽率は著しく低い。多くの樹木が同調し受粉効率を高める ③多くの動物にとって主要な餌資源になっている場合、普通の年はほとんど食べつくされてしまう。ブナの一番の被害は蛾の幼虫(シンクイムシ)、これをまぬがれた健全な実は哺乳類や鳥類の餌になる。そのためあまり実を付けず動物が少なくなったところで、大量の実を落として子孫を残している。

ブナ科コナラ属の常緑性の種を樫と呼ぶ。シラカシは関東地方に多く、西日本の平野部はアラカシが優先。ブナ帯近くにアカガシ、その他の地域はウラジロガシが多くみられる。材が堅いことから樫と名がつき、粘りも強度も高く耐久性に優れている。建材としては欄間・敷居に使われ、枕木、ハンマー・鍬・杵など道具類の柄、山車の舵取りの梃子、木刀、和太鼓のバチ・三味線の棹、ステッキなど用途は広い。垣根の主要な樹種でもあり、防風林・火災延焼防止の目的、機能も持っていました。

シラカシは隔年結実のブナ科にあって毎年多くの実をつける。樹皮は黒く黒樫の別名があるが、伐採直後の材が白いことから呼ばれるようになった。アカガシは材が赤みを帯び名づけられ、樫のなかで最も大きな葉(15cm)を持つため大樫の別名がある。ウラジロガシは葉の裏側が粉白色でこの名がついた。葉のエキスは胆石・腎臓結石排出促進作用が確認され医薬品に指定、お茶としても商品化。入浴剤に使用すると切り傷・やけど・ニキビ等の肌荒れ・痔などに効果があります。

アラカシは枝の出方が荒いこと、幹に割れ目が多く荒い感じがすること、材が固いことから荒い樫。ツクバネガシは湿気を好み沢沿いの急斜面などに多い。枝の先端に付く葉の様子が羽子板で「突く羽根」に似ていることから名がつき、筑波山とは関係ありません。オオツクバネガシはツクバネガシとアカガシの雑種。両種の混生地に見られることがあり、花序が大きいので名がついた。

ブナ科コナラ属の落葉性の種を楢と呼ぶ。名前の由来は①若葉・若枝がしなやかなことから、しなやかの古語「ナラナラ」 ②葉が広く平らあるいは葉が並ぶ意味  ③枯葉を付けたまま枝に残って鳴るなど諸説あります。木肌は中程度から荒めの堅い木材。木目がはっきりし柾目には班がみられ、その模様が虎の毛並みに似ていることから「虎班(とらふ)」と呼ばれる。カシより加工しやすく、曲がり木の材料に適し家具・イス・建具・床材・洋酒樽・化粧用単板・器具材・薪炭・シイタケのホダ木などに利用されます。

コナラは大楢の別名のあるミズナラと比較して、樹高は30mに対し15m、どんぐりの長さは2~3cmと1.5~1.8cm、どんぐりの径は1.5~1.8cmに対し0.8~1.2cmと小ぶりなことから小楢の名がついた。ミズナラはコナラやクヌギより寒冷な気候を好み、山地から亜高山帯に自生しブナよりやや明るい場所に生育。幹や枝に水分を多く含み、燃えにくいことから水楢になった。

クヌギはコナラと共に里山の代表的樹種。古くから役に立つ木とされ食の木・薪の木・栗似木・国の木・木の木などから転じた。カシワは落葉樹だが翌春に新葉が揃うまで、古い葉が枝に付いたままであることから「葉守りの神」が宿る縁起の良い木とされ、また古い葉と新しい葉が絶え間なく入れ替わることから「葉(覇)を譲る=家運隆盛」「家系が絶えない=子孫繁栄」を象徴する木として、端午の節句の柏餅に使われるようになった。

スダジイは幹や枝が分岐しやすく樹形はこんもりし樹高15~20m、直径1~1.5mに達し「鎮守の森」を形成。形がシタグミ(巻貝)に似ていることからシタシイ⇒シダジイ⇒スダジイに転じた。クリは各栽培品種の原種、山野に自生するものはシバグリ・ヤマグリと呼ばれる。ほぼ全都道府県で栽培され、茨城県が生産量29%と全国一位(2015年)。実の皮が黒っぽく「クロ」からクリになった。

ブナの生育適地は年平均気温6~13℃、年降水量1300mm以上で水平的には冷温帯、垂直的には山地帯。筑波山は標高700m以上でないとこの温度帯に入らないが、山頂(877m)付近から標高520mまで分布。南斜面は650mまでの高い所に比較的高密度であるのに対し、北斜面ではより低い所でも高密度の場所がある。筑波山のブナ林は最終氷河期の最寒冷期(2万1千年~1万8千年前)からの生き残りで大変貴重な林です。2万年前の日本の平均気温は5~6℃低く、つくば市の低地帯の気温は現在の奥日光と同じであったと云われ、ナウマンゾウの化石や現在は亜高山帯・亜寒帯でなければみられないトウヒやモミの仲間の木片が発見されています。

イヌブナは日本海側に少なく太平洋側に多い。ブナよりやや低海抜地から見られる。筑波山では南斜面にほとんど生育せず、北斜面の820m~540mの範囲でブナの比較的小径木が集中的に分布している所に局所的に混在しています。

ブナ林を渡る風がブーンと鳴ることから「ブーンと鳴る木」となったとの説があります。

ブナ科以外の植樹樹木(5種)     タブノキ・シロダモ(クスノキ科)

ヤマザクラ(バラ科)、ヤブツバキ(ツバキ科)、ユズリハ(ユズリハ科)

タブノキは各地神社の「鎮守の森」によく大木に育っている。枝葉には粘液が多く、乾かして粉にしたタブ粉は線香や蚊取り線香の粘着剤に使われ、宮脇先生は火伏の木と説明されています。海岸近くに多く生育しており、筑波山での今後の植樹はシンボル的存在として、極力少なくしていくことになっています。

八丈島特産の絹織物・黄八丈の樺色(鳶色)はタブノキ(島ではマダミ)の樹皮を染料としている。大木は樹高30m、直径1mにもなり、古くから丸木舟に用いられ、朝鮮の独木船(ドンバイ)がなまってタブとなり、タブを作る木の説があります。

シロダモはタブノキに似ているが葉の裏が白いため白タブと呼ばれ、転じてシロダモとなった。雌雄異株で10~11月に黄褐色の小花を群生させ、実が熟すまで1年近くかかり、花と実を同時に見ることが出来ます。

ヤブツバキは冬から早春に咲く鳥媒花。中南米にはハチドリが媒介する植物は多くあるが、日本ではツバキ・サザンカ・チャノキ・ビワ・ウメ・モモなど。メジロ・ヒヨドリ・ウグイスなどが食性の一部を花蜜に依存し受粉を媒介。鳥媒花の特徴は昼に咲き、赤い花が多く(80%)、花に模様がない。花冠は管状で細長く、鳥が止まれるように固い花器、嘴で傷がつかないように子房が保護されている。鳥は匂いに鈍感なのでほとんどなく、蜜は大量で花期も長い。

咲き終わると花の形のままポトリと落ちることから、武士に忌み嫌われたと云われるが、江戸城に多く植えられており、幕末から明治初期の流言であることが定説。名前の由来は光沢を表す古語「ツバ」や「艶葉木」「厚葉木」から転じたと諸説あります。

ユズリハは雌雄異株の常緑樹。若葉が生え揃った6~7月頃に古い葉が一斉に落ちることから、親が子を育て家が代々続くように見立て、正月飾りとして供物や食物の下に敷いた。秋にブドウに似た見た目に美味しそうな実を付けるが、有毒物質(ユズリハアルカロイド)を含み、呼吸困難の中毒例があります。

ヤマザクラはソメイヨシノと異なり若葉と同時に開花。奈良吉野山・京都嵐山の桜は本種、筑波山では梅林・四季の道やパールラインなどで花見が楽しめます。建材・家具・楽器・彫刻・版木などに用いられる。建材のサクラと呼ばれるのは、一般的には桜と同じような淡い風合いのカバ材などで、サクラを使用する場合は「真桜」「本桜」と記載されます。

「どんぐりハンドブック」いわさ ゆうこ 2011年文一総合出版を参考にしました。

≪予告≫ シリーズ第1回鳥類は、第一次総合調査を基に報告しましたが、第2回調査が実施されています。また、分類も大改定されていますので、大幅に加筆訂正したものを次回ホームページに掲載します。興味のある方はご覧ください。

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