活動報告

会員寄稿・岡崎隆夫さん【2018年4月3日】

岡崎隆男さんは定年退職後千葉県から茨城県つくばみらい市に移住、時折、当会の圃場で育苗作業にご協力いただき、筑波山水源の森づくりに関心を寄せて下さっています。

昨年までに「筑波山の生き物たち(第1回~第5回)」の原稿をお寄せいただき、今回は第6回の原稿となりました。詳しい貴重な内容ですので、皆様にもお読み頂きたいと思います。

 

『筑波山の生き物たち(第6回 シダ植物・種子植物)』

茨城県自然博物館は1995~96年に第一次総合調査を実施し819種を確認、過去に記録され本調査では確認できなかった種(以下文献種)は他の種に統一された4種を除き272種。また、2007~08年に補完調査を行い、新規確認57種、文献種のうち60種を再確認。合計で確認種936種、文献種212種となります。

標高877mと低く、山頂から麓まで3kmとこじんまりした山に、多様な植生がみられます。この理由は「つくばの自然史1 筑波山」(学園都市の自然と親しむ会編1992年)に分かりやすく記載されているので、引用します。

  1.  山麓から山頂にかけて明確な垂直区分がみられる。山麓は暖温帯性の常緑広葉樹(アカマツ・コナラ・スダジイ等)、中腹  に常 緑樹林と落葉樹林の中間帯(モミ・アカガシ・スギ・シキミ等)、山頂に冷温帯性の落葉樹林(ブナ林)。茨城県は北部山岳地帯が冬に落葉する冷温帯林、平野部が常緑の暖帯林とそれぞれの境界地帯。標高が100m上がると気温は0.6℃低くなり、筑波山では中腹と山頂の温度差は3℃、ちょうど森林帯の境界付近にあるため、わずかな標高差でも著しい垂直的な森林の移り変わりがみられる。
  2.  筑波山の中腹(標高200~300m)に麓より気温の高い斜面帯が存在する。夏ははっきりしないが、冬に顕著に現れる。1月の平均気温は2℃高く、西斜面と南斜面では4℃、最低気温では5~6℃の差にもなる。冬の平均気温の差はつくば市と房総半島の海岸部に相当し、温暖性植物の生育を可能としている。その発生メカニズムは、冬の雲のない夜には放射冷却により地面近くの空気だけがどんどん冷やされ、上空に暖かい空気が取り残される。中腹の空気も一旦冷やされるが、冷却された空気は重くなり斜面を下る山風になり、上空にある暖かい空気を引き下ろす循環を作り出す。このように中腹は気温が高く筑波山はミカンの北限にあたり、古くからフクレ(福来)ミカンを栽培している。直径3cmと小さく酸っぱくて種も多いが、皮は薄く香りが強い。皮(陳皮)が筑波名産・七味唐辛子に使われている。
  3.  筑波山は古事記などに、筑波神・筑波山神などとあるように先史時代から山全体が信仰の対象であったと思われ、自然が守られてきた」(要約)。 さらに、水郷筑波国定公園として保護されている。1959年霞ケ浦・潮来・佐原などの水郷地帯、鹿島神宮・香取神宮、犬吠埼から屏風が原に至る海岸線を含め水郷国定公園に定められ、1969年筑波山・加波山地域を加え水郷筑波国定公園になった。筑波山山頂付近と南面は最も規制の厳しい特別保護地区に指定され、次の事項などは知事の許可なく行うことはできない。

     

     

      ①木竹の伐採・損傷

      ②木竹以外の植物の採取・損傷

      ③木竹の植栽

      ④木竹以外の植物の栽培・種まき

      ⑤火入れ・たき火

      ⑥昆虫を含む動物の捕獲・殺傷・卵の採取

      ⑦動物を放つこと。

特別保護地区以外も特別地に指定され、指定植物(現在127種指定)は②と同様に規制。③⑥を除き同じ扱いとなる。尚、⑥は動物保護法・動物愛護管理法・鳥獣保護法で規制される。

「筑波山水源の森づくり」はスギ・ヒノキの一部を伐採し、シラカシ・ウラジロガシ・アカガシ・スダジイ・タブノキなどを植樹し針広混合林を目指していますが、許可を受けて実施しているものです。

一方、文献種が212種と多く、この中に県RLが54種含まれている。筑波山の自然環境に影響を及ぼした事項として、

  1.  大正11年(1922)中腹までの自動車道路開設。翌12年登山バス運行開始、14年にケーブルカー開通
  2.  昭和に入り、山頂北面にスキー場が計画されたが失敗。5~6年頃からグライダー練習場となるが、この時北面の森林を広く伐採
  3.  昭和13年(1938)山津波発生、直径1.5mのモミの大木が立ったまま流下
  4.  戦時中に多くの樹木を伐採・松根油の採取などで山が荒廃。筑波山神社は昭和20~23年頃荒れた山の緑化に取り組み、ヒノキ・スギなどを植林。戦後の復興を願う当時の時代背景から建材としての針葉樹が選ばれたと思われる.
  5.  昭和27~59年山頂付近に8つ無線中継施設建設。雨の多い日本の土壌は酸性型。電波塔土台のコンクリートはアルカリ性の石灰を主原料としており、抽出液が土壌をアルカリ性に変える。もともとアルカリ土壌を経験していない日本の自然林は、こうした建造物が増えるとその生育の場を帰化植物に奪われ、衰退してしまうと云われる。また、コンクリートの建物は強い日差しを受けると暖まり、輻射熱を放出し樹木に悪い影響を与える。アズマネザサは電波塔の建設時に運び込まれたと思われる
  6.  昭和40年(1965)ロープウエイ開通
  7.  昭和59年(1977)頃より松枯れが続き、大量の薬剤が空中散布された。マツノザイセンチュウ(寄生生物・日本の侵略的外来種ワースト100)は0.6~1.0mm、造船用に輸入された木材に付着して1905年長崎に上陸したと推測、1982年までに北海道と青森県を除きほぼ全国に拡大。原産地の北米では松枯れを起こさないが、日本ではアカマツ・クロマツに寄生しマツの細胞や糸状菌を食べることにより枯れ死させる。アカマツ林下に生育していた筑波山固有種ツクバウグイスカグラ(スイカズラ科)や種の保存法で希少種に指定されているアツモリソウ(ラン科)は絶滅、ハルゼミやニホンリスにも影響
  8.  高度経済成長期以降の草地の開発・湿地の埋め立て・森林の伐採
  9.  休耕田・耕作放棄地、雑木林の萌芽更新・下草刈りや草地での草本の刈取・茅場の更新がされなくなるなど里山農業の変貌
  10.  温暖化の影響
  11.  筑波エクスプレスの開通により増加した観光客・登山者による踏圧等々が指摘されます。

植生についての知識が全くありませんので、減少の著しいラン科植物・筑波山の標本をもとに名前の付いた基準標本・七草・ブナ林・希少種・生態系被害防止外来種などテーマごとに紹介していきます。地球の緑を育てる会が行っている「筑波山 水源の森づくり」が植生に及ぼす影響(効果)に興味を感じます。立派な針広混合林に育っている10年以上前の植樹地と最近の植樹地、まだ実施していないアズマネザサの繁茂しているヒノキ林の植生はどうなっているのでしょうか。どなたか教授いただければ大変ありがたいです。

スギ・ヒノキなどの人工林は人間が定期的に間伐しないと木材生産性機能を損なうのみならず、緑のダム機能の劣化が起こることが科学的に検証されています。

「間伐などが放棄された森林では立木密度が大きく樹冠が閉塞、林内に到達する日射量の不足により林床の植生が消滅し、表面流の発生や表土の流出が生じる。荒廃した40年生のヒノキ林の林床では、植生や有機物層がほとんど見られず、土壌がむき出しになっている。これに対し広葉樹林では、低木の広葉樹や林床植生の被覆が認められる。4年間の調査結果、表面流の発生はヒノキ林がスギ林を含めた他の樹種より多い。新しい水(今回の降雨でもたらされた水)と古い水(降雨前から流域に貯蔵された水)との割合でもヒノキ林が他の樹種より新しい水が多い。また間伐することにより雨が葉に付着して蒸発するものが減少し、地下水涵養量が増大することも明らかになった。さらに汚濁水などを減少させ水質の向上が望める(要約)」(緑のダムの科学 人工林荒廃と水・土砂流出に関するプロジェクト 2014年築地書館)。

会報「どんぐりくん」にちなんで、どんぐりの話を紹介します。狭義にはクヌギの果実、一般的にはブナ科コナラ属(ナラ・カシ類)を総称。団栗の団は「花より団子」の団で丸いこと、丸い栗を意味、あるいは独楽(コマ)にして遊んだことから、独楽の古語(ツムグリ)がドングリになり、団栗は当て字との説もある。「どんぐりころころ」は大正11年に作られ、昭和22年小学校教科書に使用され広く普及。「日本の歌百選(平成19年発表)」に選ばれ、金田一晴彦に「赤とんぼ(夕焼け小焼けの・・・)」「七つの子(烏なぜ鳴くの・・・)」とともに日本三大童謡の一つと評された(童謡・唱歌の世界1985年教育出版)。残念ながら昭和末期から徐々に姿を消し、平成に入りほとんど掲載されなくなりました。復活を目指して、どんぐりを植えましょう。 ( 岡崎 隆夫)

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